第 45 回年次大会プログラム
3月11日以来の東日本大震災の影響により、4月15日付でご連絡した本年大会プログラムの一部を変更せざるを得なくなりました。ASA会長Ruth Wilson Gilmore氏の講演ならびにWorkshop A,Bの取りやめが主ですが、関連して、大会初日の自由論題・開始時間を午前10時とするなどの修正を加えております。ご確認いただければ幸いです。なお、震災はアメリカ学会の活動にもこのように大きな影響を与えております。大会一日目の午後2時40分、清水博賞授与式ならびにシンポジウムに先立ち、この間の経緯を会長紀平よりご説明いたします(会長挨拶)。ご参集いただければ幸いです。
4月22日 アメリカ学会常務理事会
1. 月 日 2011 年 6 月 4 日(土) 6 月 5 日(日)
2. 場 所 東京大学駒場キャンパス → 交通案内・構内図(pdf)
〒153-8902 東京都目黒区駒場3-8-1
3. 受 付 6月4日 13号館1階吹き抜け
6月5日 1号館1階112教室
4. プログラム (登壇者の所属は大会時点のもの)
第1日 6 月 4 日 (土曜日) 自由論題 第1報告(10:00~10:35) 第2報告(10:40~11:15) 第3報告(11:20~11:55) 第4報告(12:00~12:35)
自由論題 A [13号館1階1311教室] 司会 高尾直知(中央大学) ・白川恵子(同志社大学) 市民的不服従・修辞的権威――Memoirs of Stephen Burroughs (1798)を読む ・小島尚人(東京大学(院)) アメリカ作家の自己形成―ヘンリー・ジェイムズのヨーロッパ旅行 1869-70/1872-74 ・高木ゆかり(神戸大学(院))I Love Lucyにおける「変換行為」としてのギャグ――グレマスの「欲望の関係」からの考察 ・川村亜樹(愛知大学) 亡霊たちがもたらす危うい生――Don DeLillo小説における自己充足的空間の瓦解
自由論題 B [13号館1階1312教室] 司会 廣部泉(明治大学) ・北原妙子(東洋大学) 共和国のためのアート――彫刻家クロフォードと詩人ロングフェロー ・今野裕子(南カリフォルニア大学(院)) トランスパシフィック・ローカリズム――20世紀初頭のカリフォルニア州・ターミナル島日系人にとっての故郷とは ・大八木豪(南カリフォルニア大学(院)) 1960年代-70年代におけるアジア系アメリカ人の国際主義 ・Joan S. H. Wang (National Taiwan Normal University) The Development of Anti-Japanese Sentiment among the Chinese in the American West, 1885-1937
自由論題 C [13号館2階1321教室] 司会 村田勝幸(北海道大学) ・長谷川詩織(筑波大学(院)) "It Is Ultra Modern"――1910年代における「先住民映画」の流行と対ラテン・アメリカ政策 ・小倉恵実(京都産業大学) アメリカ両大戦間期における科学言説としての優生学理論の展開 ・杉野俊子(工学院大学) 言語・教育政策に見られる人種間格差―アメリカとブラジルの黒人貧困層の比較 ・吉岡宏祐(徳島大学) 現代アメリカ合衆国におけるアファーマティブ・アクション論争分析――経済界と高等教育機関による「多様性」の「相互構築」を中心に
自由論題 D [13号館2階1322教室] 司会 井口治夫(名古屋大学) ・久保浩樹(京都大学(院)) リアリストは冷戦期アメリカの民主主義をどのように見ていたのか?――モーゲンソーとウォルツ再読 ・松本明日香(日本国際問題研究所) 公開討論会と外交機密――1960年第4回、1976年第2回米国大統領候補者テレビ討論会の対照比較―― ・佐藤真千子(静岡県立大学) 人権外交の展開におけるフリーダム・ハウスの役割――カーター政権を中心に ・佐原彩子(カリフォルニア大学サンディエゴ校(院)) 日米インドシナ難民政策にみる人種化された難民像
自由論題 E [13号館3階1331教室] 司会 阿部小涼(琉球大学) ・徳田勝一(東京大学(院)) 南北戦争時の大量死と世紀転換期の「南北和解」――軍人の記憶が「南北和解」に果たした役割を中心に ・深松亮太(法政大学(院)) ポピュリスト運動と帝国主義論争――植民地住民のシティズンシップを巡る議論と人種 ・大岩根安里(同志社大学(院)) イスラエル建国以前のアメリカ・シオニズムの多様性――H・ソルドとL・D・ブランダイスに見られるパレスチナ観の比較 ・上 英明(東京大学(院)) 米国におけるヒスパニックの政治的台頭――フロリダのキューバ系勢力による米国政治への統合を中心に
昼食休憩 (12:35~13:50)
理事・評議員会(12:40~13:40)[1号館1階109教室]
総 会(13:50~14:20) [13号館2階1323教室]
会長挨拶・清水博賞授与式 (14:40~15:05) [13号館2階1323教室]
シンポジウム (15:10~17:40) [13号館2階1323教室] 「反知性主義再考」 司会 久保 文明(東京大学) 報告者 前川 玲子(京都大学) ホーフスタッターの『アメリカにおける反知性主義』――その知的起源と政治的背景 後藤 和彦(立教大学) W・J・キャッシュと志賀直哉――「野蛮な理想」と「原始的な慾情」 森本あんり(国際基督教大学) Harvardism, Yalism, Pricetonismをぶっとばせ――反知性主義の伝統と20世紀リヴァイヴァリズム 会田 弘継(共同通信編集委員室長) 反近代的心性と反知性主義
懇親会 (18:00~20:00) [駒場コミュニケーションプラザ南館(生協食堂)2階]
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第 2 日 6 月 5 日 (日曜日)
部会 A 「南北戦争150周年――巨大内戦の意味を問う」 [1号館2階164教室](9 : 30~12:00) 司会 横山 良(甲南大) 報告者 加藤(磯野)順子(日本大学(講)) テネシーに於ける奴隷解放について 小原 豊志(東北大学) 南北戦争・再建と黒人選挙権――選挙権における白人性解体の意義と限界―― 西出 敬一(徳島大学名誉教授) 間大西洋の奴隷制廃止における南北戦争 コメント 田中きく代(関西学院大学)
部会 B 「連続企画 アメリカの教え方(現状認識)」 [1号館2階159教室](9 : 30~12:00) 司会 油井大三郎(東京女子大学) 報告者 松原 宏之(横浜国立大学) アメリカを<誰>と<どこ>で学びあうのか――横浜国立大学グローバルスタディツアーの事例から 和泉 真澄(同志社大学) 文化ポリティクスとの付き合い方――グローバル・シティズンシップ教育とアメリカ研究 尾崎 俊介(愛知教育大学) 予備知識なき学生へのアメリカ文化の教え方――私の試行錯誤
分科会(12:10~13:30)および昼食(分科会の内容については,以下をを参照)[1号館1階各教室]
部会 C 「ゼロ年代のアメリカ文化」 [1号館2階166教室](13 : 40~16:10) 司会・コメント 都甲 幸治(早稲田大学) 報告者 大和田俊之(慶應大学) ジェイZ、BK、そしてMP3──ゼロ年代の音楽 小澤 英実(東京学芸大学) 隠喩としてのゾンビ――アメリカの/という怪物表象をめぐって 巽 孝之(慶應大学) 見えないアジア、別の日本 吉本 光宏(早稲田大学) 陰謀論からポピュリズムへ
部会 D 「中間選挙後の内政と外交」 [1号館2階159教室](13 : 40~16:10) 司会・コメント 村田 晃嗣(同志社大学) 報告者 渡辺 将人(北海道大学) オバマの内政と支持層――大統領選挙に向けて 阪田 恭代(神田外国語大学) オバマ政権と米韓関係 伊藤 剛(明治大学) 「勢力均衡」か「覇権」か――米中関係安定のための要件
部会 E 「環境と現代アメリカ」 [1号館2階164教室](13 : 40~16:10) 司会 小塩 和人(上智大学) 報告者 原口 弥生(茨城大学) メキシコ湾原油流出事故にみるアメリカ環境政治――史上最悪の事故による最小限の政策的影響? 石山 徳子(明治大学) 原生自然の空間構築と人種――デス・バレー国立公園を事例に 亀山 康子(国立環境研究所) 米国と気候変動 杉野 綾子(日本エネルギー研究所)環境規制とエネルギー供給
5. 連絡事項 1) 懇親会は事前の申し込みが必要です。 懇親会費 6,000 円は同封の払込用紙にて 5 月9日(月)までにご納入下さい (期日厳守)。払い込まれた懇親会費はいかなる事情があってもお返しできませんので、 ご注意ください。
2) 年会費の当日払いは受け付けられませんのでご了承ください。 3) 非会員の大会参加費は 1,000 円です。 会場受付にてお支払いください。
6. 昼食について 昼食:大学構内で飲食できるのは、駒場コミュニケーションプラザ南館(生協食堂)1階、ルヴェ・ソン・ヴェール(ファカルティ・ハウス)、イタリアントマトです。4日(土)はその全てが営業していますが、5日(日)は生協食堂が閉まります。ルヴェ・ソン・ヴェール、イタリアントマト、大学周辺の飲食店を利用されるか、各自お弁当をご用意ください。大学周辺の飲食店は、大会受付で配布するランチマップに記載いたします。
7.東京大学駒場キャンパスまでの交通案内・構内図
8.宿泊施設 宿泊施設のご案内はとくに致しません。大学会場に一番近い繁華街は渋谷です。同会場には、品川、恵比寿、新宿などからも電車を乗り継いで比較的短時間で来られます。
9.会場案内 受付 6月4日(土) 13号館1階吹き抜け 6月5日(日)1号館1階112教室 本部・スタッフ控え室 6月4日(土) 5日(日) 1号館1階112教室 一般控え室 6月4日(土) 5日(日) 1号館1階113教室 書店等の出展 6月4日(土)13号館1階吹き抜け 6月5日(日)1号館1階 108教室
6月4日(土) 午前 自由論題 13号館1~3階各教室 昼食時 理事・評議員会 1号館1階 109教室 総会 13号館2階 1323教室 午後 会長挨拶・シンポジウム 13号館2階 1323教室 懇親会 駒場コミュニケーションプラザ南館(生協食堂)2階
6月5日(日) 午前 部会 13号館2階各教室 昼食時 分科会 1号館1階各教室 午後 部会 13号館2階各教室
第45回年次大会 分科会(12:10~13:30)のご案内
( )は責任者。会場はすべて1号館1階の教室です。
1. アメリカ政治(平体由美(札幌学院大学))102教室 テーマ:統合と表象――他者の視点の再認識 報 告:藤村好美(群馬県立女子大学)「アメリカにおける「シティ・カウンティ統合」と都市政治の改革――ケンタッキー州ルイビルの事例をもとに――」 金澤宏明(明治大学兼任講師)「19世紀末アメリカにおける政治カートゥーンの表象――キューバ問題を中心に――」 アメリカ政治研究のフィールドや分析視角は多岐にわたっている。のみならず、他分野の影響を受けて年々新しいアプローチが登場する。その豊かさは瞠目すべきである。しかしながら、アメリカにおけるアメリカ政治研究をフォローする努力の一方で、アメリカ外部の者が持つ文化性や他者性を意識した研究は、次第に減少している印象がぬぐえない。本分科会では、日本における自治体合併構想を一つの鏡としてアメリカのカウンティ統合を考察すること、日本におけるマンガ表象の方法論をアメリカの政治カートゥーンに適用することについて試みる。政治研究という枠組みを共有しながらも、外国人だからこそ見える問題、取りうる方法の価値を再考するきっかけとしたい。
2. 冷戦史研究(松田武(大阪大学))103教室 テーマ:ドイツ再統一とアメリカ外交 報 告:森 聡(法政大学) 1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊し、H・コール西ドイツ首相が同28日の議会演説でドイツ再統一に向けての方針を「十ヶ条」にまとめて発表した。英仏ソはドイツ再統一に対して強い警戒心を抱くが、1990年9月12日のいわゆる「2+4」会議では、ドイツ再統一に関する基本合意に達した。本報告では、アメリカがドイツ再統一の推進において、いかにして英仏ソの反対を乗り越えたのか、そしてそれはなぜ可能となったのか、先行研究も批判的に検討しながら解明を試みたい。より具体的には、西欧諸国に対する安心供与(統一ドイツのNATOへの編入)と、ソ連に対する安心供与(統一ドイツがソ連の安全保障上の利益を害さないような仕組み)との間には対立が生じていたが、アメリカ(と西ドイツ)の外交が、いかにこれを克服したのかを明らかにしてみたい。
3. 日米関係(浅野一弘(札幌大学))115教室 テーマ:アメリカの選挙報道にみる日米関係――日米比較の観点から―― 報 告:前嶋和弘(文教大学) 本報告では2010年の選挙(7月の参議院選と11月の中間選挙)を含め、過去25年間の日米両国の選挙における重要争点の推移を分析し、日米関係がどのように変化してきたのかを検証する。具体的には、各種世論調査とともに、有力紙の内容分析を行い、包括的に分析する。90年代半ばまでの「ジャパンバッシング」の時代においては、アメリカの選挙では「日本問題」は大きな争点だったが、近年、日本が選挙の争点に浮上することは極めてまれになっている。これは日米関係が良好であることを示しているものの、中国の経済的台頭もあって日本のプレゼンスが小さくなっている点も否定できない。一方、日本の場合、7月の参議院選における普天間問題のように、アメリカ関連の政策が頻繁に争点化し続けているのはいうまでもない。本報告では、選挙というプリズムを通じて、この日米間の大きなねじれも明らかにしたい。
4. 経済・経済史(名和洋人(名城大学))116教室 テーマ:航空宇宙からソフトウェアへ――「創造型企業都市」シアトルの軌跡―― 報 告:山縣宏之(立教大学) 本報告は、アメリカでも産業構成の「多様化」に成功してきた都市の一つと考えられる太平洋岸北西地域の産業都市シアトルの戦後産業発展プロセスを追跡する。1960年代から1980年代にかけてのシアトルは、航空宇宙産業都市として発展した。そこで第一に、航空宇宙産業都市のしくみを、ボーイング社を基軸とした企業都市の成り立ちに注目して検討する。加えてシアトルは1980年代以降、経済構造が著しくサービス化・ソフト化し、なかでもソフトウェア産業を中心とするハイテク産業が存在感を増した。従って第二に、シアトルでソフトウェア産業が成長した要因を、巨大企業マイクロソフト社と多様なソフトウェア企業の成長発展プロセスの検討を通じて浮き彫りにする。このように新しい企業を生み出す「創造型企業都市」のしくみと産業構成の多様化プロセスの検討を通じて、現代アメリカ産業都市が変化し続けるのはなぜか、有益な知見を引き出してみたい。
5. アジア系アメリカ研究(野崎京子(京都産業大学))117教室 テーマ:日系ペルー人強制収容経験の社会学的研究――ライフストーリーからみる「集い」のかたち 報 告:仲田周子(日本女子大学(院)) 第二次大戦中、ペルーからアメリカ合衆国へ強制収容された約1800人の日系ペルー人は、戦後、ペルーへの再入国を許されたわずかな人びとをのぞき、日本、アメリカへと離散することとなった。1980年代、テキサス州クリスタル・シティ収容所への強制収容を経験した日系ペルー人を中心にして「ペルー会」が開催され、現在まで継続的に集まりが持たれるようになった。強制収容という過去の記憶を軸に離散した人びとを結びつけるペルー会は、参加する個々のアイデンティティや家族の歴史、あるいは強制収容以降の生活経験など多様なライフが交錯する空間でもある。本報告では、ペルー会に集う人びとのライフストーリーから、強制収容経験がどのように意味づけられ、またそれら個々の経験に対して、ペルー会という集いがどのように位置づけられるのかをみていく。日系ペルー人強制収容経験について、社会学的な立場からその現在的意味を考えたい。
6. アメリカ女性史・ジェンダー研究(兼子歩(長野県短期大学))118教室 テーマ:同性婚と「家族の価値」――合衆国文化戦争の一側面 報告:小泉明子(京都大学(院)) アメリカ合衆国では1990年以降、同性婚の承認が大統領選の争点になるなど世論を二分するイシューとなってきた。同性婚問題は合衆国においては文化的価値観をめぐる対立(文化戦争:Culture War)の一つとして認識されている。婚姻する権利の平等を求める同性愛者の権利運動と、それに反対する宗教右派(Christian Rights)の対立は、合衆国の政策、立法に対し様々な影響を及ぼしている。宗教右派は1970年代末に「家族の価値Family Values」という伝統的婚姻保護の主張を掲げて反同性愛運動(counter movements)を開始するが、1990年代以降には自らの政策アジェンダを実現させるために共和党と接近していく。本報告は、同性婚をめぐる同性愛者の権利運動と宗教右派の反対運動が生じさせるダイナミズムを通して、合衆国で家族、婚姻がどのようなものとしてとらえられているのかにつき、考察する。
7. アメリカ先住民研究(佐藤円(大妻女子大学))119教室 テーマ:インディアン部族――その法的意味 報 告:藤田尚則(創価大学(院)) アメリカ先住民のグループが、「インディアン部族」であると連邦によって正式に承認されることは、当該グループが、連邦政府と政府対政府の関係に立つことを意味する。部族であることの連邦による積極的承認は、部族が独立した固有の主権的権限を有することをも意味する。承認によって部族は、主権免除をもち、自らのテリトリーに対する管轄権を行使し、部族裁判所を設立することができる。また、「インディアン自決及び教育援助法」に基づいて補助金を管理し、「インディアン賭博規制法」に従って賭博場を設置し、「インディアン交易及び通商法」によって土地請求を提起し得る。更に部族は、条約に基づく狩猟権及び漁業権を行使し、その他の連邦法上のさまざまな役務を取得し得るのである。 本報告は、連邦による部族の承認の手続きとその意義、連邦法の適用、管理終結された部族の権利回復等の問題について、判例の展開を念頭に、論究することを目的とする。
8. 初期アメリカ(橋川健竜(東京大学))120教室 テーマ:海と船から見る初期アメリカ世界 報 告:薩摩真介(早稲田大学(非))「大西洋世界の中の財政軍事国家ブリテン――十八世紀初頭のブリテン領カリブ海植民地における私掠奨励政策と海軍水夫供給問題(仮)」 笠井俊和(名古屋大学(院))「反抗的な船乗り・従順な船乗り――近世大西洋世界における船の上の小社会(仮)」 近年、ブリテン史とアメリカ史の双方で、大西洋世界を視野に入れた17・18世紀研究がさかんに行われている。中でも海に直接かかわる海事史は、一国史のかなたにある近世史像をさまざまに実感させてくれる、魅力ある分野である。本分科会では、近世海事史の先端的な報告2本をつうじて、18世紀の大西洋世界における初期アメリカの位置を考える。ブリテン領アメリカ植民地で活発に活動していた私掠船の乗組員を、ブリテン海軍が強制的に徴募することを禁止する「アメリカ法」が1708年に本国で成立する過程の検討と、1720年代にボストン副海事裁判所で扱われた訴訟と船舶の出入港記録から、当時の船乗りが船上生活の何に不満を感じていたかを描き出す分析により、植民地社会と船乗りの関係、変転しつつあった帝国の構造と政治、ジャマイカ植民地をはじめとするカリブ海地域とのつながりなど、13植民地を越える近世世界の広がりと深みを探ってみたい。
9. 文化・芸術史(小林剛(関西大学))121教室 テーマ:アメリカ文化・芸術史研究の現在と未来 報 告:今回は発表報告という形を取らず、責任者が提案するテーマに関して参加者によるラウンドテーブル・ディスカッションを行いたいと思います。 この分科会では、文化研究や芸術史のみならず、メディア文化研究や表象文化論といった新しい分野で研究を進めている若い研究者の受け皿づくりをしていきたいと考えています。前回の分科会では、表現メディアの多様化や美術館及びマーケットの変貌、あるいはポストモダニズムの常識化による「アート概念の変容」をテーマにして、3名の若手研究者による報告を行ってもらいました。今回の分科会では、この分野における若手研究者のネットワークづくりに主眼を置き、「アメリカ文化・芸術史研究の現在と未来」と題して参加者によるラウンドテーブル・ディスカッションを行いたいと思います。日本のアメリカ研究における当分野の現状に関する基調報告は責任者の方で務めます。
1. アメリカ政治(平体由美(札幌学院大学))102教室 テーマ:統合と表象――他者の視点の再認識 報 告:藤村好美(群馬県立女子大学)「アメリカにおける「シティ・カウンティ統合」と都市政治の改革――ケンタッキー州ルイビルの事例をもとに――」 金澤宏明(明治大学兼任講師)「19世紀末アメリカにおける政治カートゥーンの表象――キューバ問題を中心に――」 アメリカ政治研究のフィールドや分析視角は多岐にわたっている。のみならず、他分野の影響を受けて年々新しいアプローチが登場する。その豊かさは瞠目すべきである。しかしながら、アメリカにおけるアメリカ政治研究をフォローする努力の一方で、アメリカ外部の者が持つ文化性や他者性を意識した研究は、次第に減少している印象がぬぐえない。本分科会では、日本における自治体合併構想を一つの鏡としてアメリカのカウンティ統合を考察すること、日本におけるマンガ表象の方法論をアメリカの政治カートゥーンに適用することについて試みる。政治研究という枠組みを共有しながらも、外国人だからこそ見える問題、取りうる方法の価値を再考するきっかけとしたい。
2. 冷戦史研究(松田武(大阪大学))103教室 テーマ:ドイツ再統一とアメリカ外交 報 告:森 聡(法政大学) 1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊し、H・コール西ドイツ首相が同28日の議会演説でドイツ再統一に向けての方針を「十ヶ条」にまとめて発表した。英仏ソはドイツ再統一に対して強い警戒心を抱くが、1990年9月12日のいわゆる「2+4」会議では、ドイツ再統一に関する基本合意に達した。本報告では、アメリカがドイツ再統一の推進において、いかにして英仏ソの反対を乗り越えたのか、そしてそれはなぜ可能となったのか、先行研究も批判的に検討しながら解明を試みたい。より具体的には、西欧諸国に対する安心供与(統一ドイツのNATOへの編入)と、ソ連に対する安心供与(統一ドイツがソ連の安全保障上の利益を害さないような仕組み)との間には対立が生じていたが、アメリカ(と西ドイツ)の外交が、いかにこれを克服したのかを明らかにしてみたい。
3. 日米関係(浅野一弘(札幌大学))115教室 テーマ:アメリカの選挙報道にみる日米関係――日米比較の観点から―― 報 告:前嶋和弘(文教大学) 本報告では2010年の選挙(7月の参議院選と11月の中間選挙)を含め、過去25年間の日米両国の選挙における重要争点の推移を分析し、日米関係がどのように変化してきたのかを検証する。具体的には、各種世論調査とともに、有力紙の内容分析を行い、包括的に分析する。90年代半ばまでの「ジャパンバッシング」の時代においては、アメリカの選挙では「日本問題」は大きな争点だったが、近年、日本が選挙の争点に浮上することは極めてまれになっている。これは日米関係が良好であることを示しているものの、中国の経済的台頭もあって日本のプレゼンスが小さくなっている点も否定できない。一方、日本の場合、7月の参議院選における普天間問題のように、アメリカ関連の政策が頻繁に争点化し続けているのはいうまでもない。本報告では、選挙というプリズムを通じて、この日米間の大きなねじれも明らかにしたい。
4. 経済・経済史(名和洋人(名城大学))116教室 テーマ:航空宇宙からソフトウェアへ――「創造型企業都市」シアトルの軌跡―― 報 告:山縣宏之(立教大学) 本報告は、アメリカでも産業構成の「多様化」に成功してきた都市の一つと考えられる太平洋岸北西地域の産業都市シアトルの戦後産業発展プロセスを追跡する。1960年代から1980年代にかけてのシアトルは、航空宇宙産業都市として発展した。そこで第一に、航空宇宙産業都市のしくみを、ボーイング社を基軸とした企業都市の成り立ちに注目して検討する。加えてシアトルは1980年代以降、経済構造が著しくサービス化・ソフト化し、なかでもソフトウェア産業を中心とするハイテク産業が存在感を増した。従って第二に、シアトルでソフトウェア産業が成長した要因を、巨大企業マイクロソフト社と多様なソフトウェア企業の成長発展プロセスの検討を通じて浮き彫りにする。このように新しい企業を生み出す「創造型企業都市」のしくみと産業構成の多様化プロセスの検討を通じて、現代アメリカ産業都市が変化し続けるのはなぜか、有益な知見を引き出してみたい。
5. アジア系アメリカ研究(野崎京子(京都産業大学))117教室 テーマ:日系ペルー人強制収容経験の社会学的研究――ライフストーリーからみる「集い」のかたち 報 告:仲田周子(日本女子大学(院)) 第二次大戦中、ペルーからアメリカ合衆国へ強制収容された約1800人の日系ペルー人は、戦後、ペルーへの再入国を許されたわずかな人びとをのぞき、日本、アメリカへと離散することとなった。1980年代、テキサス州クリスタル・シティ収容所への強制収容を経験した日系ペルー人を中心にして「ペルー会」が開催され、現在まで継続的に集まりが持たれるようになった。強制収容という過去の記憶を軸に離散した人びとを結びつけるペルー会は、参加する個々のアイデンティティや家族の歴史、あるいは強制収容以降の生活経験など多様なライフが交錯する空間でもある。本報告では、ペルー会に集う人びとのライフストーリーから、強制収容経験がどのように意味づけられ、またそれら個々の経験に対して、ペルー会という集いがどのように位置づけられるのかをみていく。日系ペルー人強制収容経験について、社会学的な立場からその現在的意味を考えたい。
6. アメリカ女性史・ジェンダー研究(兼子歩(長野県短期大学))118教室 テーマ:同性婚と「家族の価値」――合衆国文化戦争の一側面 報告:小泉明子(京都大学(院)) アメリカ合衆国では1990年以降、同性婚の承認が大統領選の争点になるなど世論を二分するイシューとなってきた。同性婚問題は合衆国においては文化的価値観をめぐる対立(文化戦争:Culture War)の一つとして認識されている。婚姻する権利の平等を求める同性愛者の権利運動と、それに反対する宗教右派(Christian Rights)の対立は、合衆国の政策、立法に対し様々な影響を及ぼしている。宗教右派は1970年代末に「家族の価値Family Values」という伝統的婚姻保護の主張を掲げて反同性愛運動(counter movements)を開始するが、1990年代以降には自らの政策アジェンダを実現させるために共和党と接近していく。本報告は、同性婚をめぐる同性愛者の権利運動と宗教右派の反対運動が生じさせるダイナミズムを通して、合衆国で家族、婚姻がどのようなものとしてとらえられているのかにつき、考察する。
7. アメリカ先住民研究(佐藤円(大妻女子大学))119教室 テーマ:インディアン部族――その法的意味 報 告:藤田尚則(創価大学(院)) アメリカ先住民のグループが、「インディアン部族」であると連邦によって正式に承認されることは、当該グループが、連邦政府と政府対政府の関係に立つことを意味する。部族であることの連邦による積極的承認は、部族が独立した固有の主権的権限を有することをも意味する。承認によって部族は、主権免除をもち、自らのテリトリーに対する管轄権を行使し、部族裁判所を設立することができる。また、「インディアン自決及び教育援助法」に基づいて補助金を管理し、「インディアン賭博規制法」に従って賭博場を設置し、「インディアン交易及び通商法」によって土地請求を提起し得る。更に部族は、条約に基づく狩猟権及び漁業権を行使し、その他の連邦法上のさまざまな役務を取得し得るのである。 本報告は、連邦による部族の承認の手続きとその意義、連邦法の適用、管理終結された部族の権利回復等の問題について、判例の展開を念頭に、論究することを目的とする。
8. 初期アメリカ(橋川健竜(東京大学))120教室 テーマ:海と船から見る初期アメリカ世界 報 告:薩摩真介(早稲田大学(非))「大西洋世界の中の財政軍事国家ブリテン――十八世紀初頭のブリテン領カリブ海植民地における私掠奨励政策と海軍水夫供給問題(仮)」 笠井俊和(名古屋大学(院))「反抗的な船乗り・従順な船乗り――近世大西洋世界における船の上の小社会(仮)」 近年、ブリテン史とアメリカ史の双方で、大西洋世界を視野に入れた17・18世紀研究がさかんに行われている。中でも海に直接かかわる海事史は、一国史のかなたにある近世史像をさまざまに実感させてくれる、魅力ある分野である。本分科会では、近世海事史の先端的な報告2本をつうじて、18世紀の大西洋世界における初期アメリカの位置を考える。ブリテン領アメリカ植民地で活発に活動していた私掠船の乗組員を、ブリテン海軍が強制的に徴募することを禁止する「アメリカ法」が1708年に本国で成立する過程の検討と、1720年代にボストン副海事裁判所で扱われた訴訟と船舶の出入港記録から、当時の船乗りが船上生活の何に不満を感じていたかを描き出す分析により、植民地社会と船乗りの関係、変転しつつあった帝国の構造と政治、ジャマイカ植民地をはじめとするカリブ海地域とのつながりなど、13植民地を越える近世世界の広がりと深みを探ってみたい。
9. 文化・芸術史(小林剛(関西大学))121教室 テーマ:アメリカ文化・芸術史研究の現在と未来 報 告:今回は発表報告という形を取らず、責任者が提案するテーマに関して参加者によるラウンドテーブル・ディスカッションを行いたいと思います。 この分科会では、文化研究や芸術史のみならず、メディア文化研究や表象文化論といった新しい分野で研究を進めている若い研究者の受け皿づくりをしていきたいと考えています。前回の分科会では、表現メディアの多様化や美術館及びマーケットの変貌、あるいはポストモダニズムの常識化による「アート概念の変容」をテーマにして、3名の若手研究者による報告を行ってもらいました。今回の分科会では、この分野における若手研究者のネットワークづくりに主眼を置き、「アメリカ文化・芸術史研究の現在と未来」と題して参加者によるラウンドテーブル・ディスカッションを行いたいと思います。日本のアメリカ研究における当分野の現状に関する基調報告は責任者の方で務めます。